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腸管のバリア機能: 重要な境界面

腸管のバリア機能: 重要な境界面

著者:アメリー マグナー博士(獣医師)/AMÉLIE MUGNIER 伴侶動物研究開発マネージャー

はじめに

この数年、「腸管の健康」という概念は、栄養学者、獣医師及び科学者の間で大きな注目を集めています。消化管(GIT)は、食物の消化と吸収を担い、体の維持に必要な栄養素を供給する重要な臓器としてよく認知されています1。これらの機能は、犬猫の全身の健康と幸せに結びついています。また、飼い主がペットの食事を評価する際の重要な因子になる便の固さや臭いといった糞便の性状にも影響を及ぼします2
 腸管においてバリア機能を担うのは腸管上皮細胞と粘膜であり、体と外部環境の間に最大表面積の境界面を形成しています。その構造と機能の効果的な働きは、消化管が十分に機能する上で欠かせない存在となっています 3,4

腸管のバリア機能と構造

腸管のバリアは腸管上皮細胞と粘液で構成され、微生物・化学・物理バリアを担っています (図 1)。腸管内腔は、常に様々な圧力にさらされています。そのためその正常性を保つために、盛んに再生されています。この腸管バリアの主な機能は、有害な作用を及ぼす可能性がある細菌成分や病原体が血流や体内に侵入することを阻止するとともに、栄養素の選択的な吸収を行うことです5,6
 微生物バリアは、腸内マイクロバイオータ(微生物群集)で構成されています。栄養の消化とエネルギーの取り出しに関与して食物に対する免疫寛容を維持するとともに、宿主の自然免疫反応の誘導にも重要な役割を果たし、感染からの防御を担っています6。現在では、腸管内腔の微生物と上皮細胞の間の複雑な相互作用ネットワークによって腸管バリアの健全性が維持され、調節されていることが広く認識されています10
 化学バリアは、特殊な細胞(杯細胞)が分泌する粘液の層で構成されており、腸上皮の第一の防衛線と考えられています11。水分とムチンを主成分とし、複数の機能を持った糖蛋白ネットワークを形成しています。化学バリアの機能は、病原性微生物の体内への侵入を防ぐと同時に、腸管全体の健康に貢献し、消化を助ける常在菌の生息場所を提供することです。免疫反応によって、抗菌ペプチド(antimicrobial peptides:AMP)も分泌されています。また、粘液層は食物粒子による機械的な衝撃から上皮細胞を守り、胃の酸性環境に直接さらされるのを防ぐ補助的な物理バリアとしても作用しています。
 主要な物理バリア機能は、単層の腸管上皮細胞が担っています。吸収上皮細胞、パネート細胞、杯細胞、腸管内分泌細胞、タフト細胞、M細胞というそれぞれ異なる機能を持った6種類の細胞で構成されています11。これらの腸管上皮細胞は、細胞間接着構造(タイトジャンクション、アドへレンスジャンクション、デスモソーム等)によって強固に接着しています6,8。この単層の腸管上皮細胞は、腸管内腔と体内をつなぐとともに、有害物質の侵入防止に役立っています。さらに、経細胞経路(細胞膜を介した受動的拡散)、担体輸送(担体を介した経細胞経路)及び傍細胞経路(近接する細胞間を通る受動的拡散)の主に3種類の経路を介して、必要なイオンや栄養素、水分の選択的フィルターとしても働いています5,11

 このように腸管バリアは、栄養素、常在菌、病原体、環境抗原等のさまざまな外的因子に常にさらされ続け、多面的な機能を有しています。これを踏まえると、腸管粘膜免疫系が高度に発達し、進化を遂げたことは驚くに値しないでしょう1。腸関連リンパ組織(gut-associated lymphoid tissue:GALT)は、腸管免疫系の支柱を担うリンパ組織を指します。体内でリンパ系細胞をもっとも多く含むリンパ組織の1つであり、実際には病原体に対する効果的な反応と有害な刺激に対する免疫寛容(常在菌や食物抗原に関与)のバランスを両立させることで腸の恒常性の維持に欠かせない役割を果たす複数の種類のリンパ組織で構成されています12。パイエル板(B細胞やT細胞が豊富なリンパ濾胞)などの組織化されたリンパ構造だけでなく、腸管の固有層や上皮細胞間、上皮内に散在する免疫細胞で構成されています。GALTと粘膜バリアの密接な関係がGALTと抗原との接触を制限し、望ましくない免疫反応の抑制に役立っていることは特に強調すべき重要な点でしょう13

腸管バリア機能の損傷による多岐にわたる悪影響

栄養不足や感染、その他の疾患などによって腸管のバリア機能の健全性が失われると、「腸管の透過性」が亢進します。腸管透過性は腸粘膜の健全性の指標であり、意図していない成分が腸管上皮を通過し体内に侵入した割合を示すものです。意図していない成分としては、体内に入り込むことで炎症や食物アレルギー、栄養吸収障害、免疫障害、疾病を引き起こすことがある分子が挙げられます10。犬や猫の一生において、腸管バリアの健全性を損なう可能性がある因子にはたくさんのものがあり、これらは腸が関与する複数の疾患を引き起こし、全体的な健康にも負の影響を及ぼすことがあります(図2)。例えば病原菌は、腸内マイクロバイオータのバランスを変化させてタイトジャンクションや腸管上皮細胞にダメージを引き起こします。これは体液や電解質の過剰分泌や、吸収低下につながることがあります14

 

結論

腸管は栄養吸収と防御のバランスをとるための複雑な機能を担い、伴侶動物の健康の基盤です。腸管バリア機能の健全性は、腸内マイクロバイオータ及び腸管上皮細胞、宿主の免疫系の複雑な相互作用によって成り立っています。この複雑な機構と健全性に影響を与える因子を理解することは、腸関連疾患の効果的な治療方法の確立において極めて重要です。

参考文献

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  2. Félix, A.P.; Souza, C.M.M.; De Oliveira, S.G. Biomarkers of Gastrointestinal Functionality in Dogs: A Systematic Review and Meta-Analysis. Anim. Feed Sci. Technol. 2022, 283, 115183, doi:10.1016/j.anifeedsci.2021.115183.
  3. Paone, P.; Cani, P.D. Mucus Barrier, Mucins and Gut Microbiota: The Expected Slimy Partners? Gut 2020, 69, 2232–2243, doi:10.1136/gutjnl-2020-322260.
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  8. Kocot, A.M.; Jarocka-Cyrta, E.; Drabińska, N. Overview of the Importance of Biotics in Gut Barrier Integrity. Int. J. Mol. Sci. 2022, 23, 2896, doi:10.3390/ijms23052896.
  9. Saxami, G.; Kerezoudi, E.N.; Eliopoulos, C.; Arapoglou, D.; Kyriacou, A. The Gut–Organ Axis within the Human Body: Gut Dysbiosis and the Role of Prebiotics. Life 2023, 13, 2023, doi:10.3390/life13102023.
  10. Wells, J.M.; Brummer, R.J.; Derrien, M.; MacDonald, T.T.; Troost, F.; Cani, P.D.; Theodorou, V.; Dekker, J.; Méheust, A.; De Vos, W.M.; et al. Homeostasis of the Gut Barrier and Potential Biomarkers. Am. J. Physiol.-Gastrointest. Liver Physiol. 2017, 312, G171–G193, doi:10.1152/ajpgi.00048.2015.
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  12. Tokuhara, D.; Kurashima, Y.; Kamioka, M.; Nakayama, T.; Ernst, P.; Kiyono, H. A Comprehensive Understanding of the Gut Mucosal Immune System in Allergic Inflammation. Allergol. Int. 2019, 68, 17–25, doi:10.1016/j.alit.2018.09.004.
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投稿日 Mar 13, 2025

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